「におい解体新書」-JAXA編-

画期的な光触媒コーティング技術、その高性能消臭に迫る

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JAXA編 I 宇宙ステーションの消臭・除菌

株式会社フジコーは、国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)と、
”有人宇宙施設や有人宇宙船における衛生環境向上の可能性を探るための、
光触媒をベースとした、消臭・除菌及び有害ガス除去技術の軌道上実証に向けた共同研究”を行っています。

I-01 宇宙ステーションの「におい」?!

宇宙飛行士は、その中にいる

宇宙から美しい地球の画像を投稿してくれたあの時、宇宙は臭かった?!

国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する宇宙飛行士からの交信では伝わってこないのが、においです。
じつは、宇宙ステーション内は独特な「におい」がするようで、ある飛行士はそれを「体育会系の部室のにおい」と表現したといいます。ISSで撮った美しい地球の写真をTwitterにupしてくれた時も、飛行士は「臭い思いをしていたかもしれない」なんて、なんか想像できないですよね。

窓を開けられない宇宙ステーション内では、地上とは異なる「におい対策」が必要

宇宙ステーション内のにおいの原因は、人が発する汗に含まれる有機物等ではないかとされています。考えてみれば、悪臭がしたら窓を開けて空気を入れ替えるといった、地上なら簡単にできることが、できないのが宇宙空間。ISS内では地上と異なる対策が必要となります。

飛行士たちを、悪臭や有毒ガスから守る研究が進行中

現在、世界が協力して実現をめざしている有人火星探査には、往復だけで約3年がかかります。それは、まさに閉鎖空間での長期滞在となるので、宇宙飛行士の居住環境整備は、いっそう重要。そこでJAXAでは、共同研究に合わせ、宇宙船内の消臭・殺菌や有害ガス除去の研究が進められています。ひと口に消臭といっても、宇宙空間・宇宙船内での消臭です。そこには特有の制約が立ちはだかっていました。

I-02 宇宙ステーション内の消臭!その難しさ

エネルギーの消費を抑え、極力メンテナンスフリーに

宇宙飛行士がISSとの往復に使用するソユーズ宇宙船(左手前 右奥はプログレスM補給船)

宇宙ステーションでの長期滞在で有人宇宙開発が身近に!

昨年末の油井亀美也飛行士の、国際宇宙ステーション(ISS)からの地球への帰還は、感動的でしたね。H-IIAロケット29号機の打ち上げ成功、小惑星探査機「はやぶさ2」スイングバイ、「あかつき」の金星周回軌道投入と、宇宙を巡るビッグなニュースが続いていますが、日本人飛行士による相次ぐ長期滞在ミッションの成功は、有人宇宙開発の夢がどんどん身近になっていることを実感させます。

油井さんら第45次クルー、宇宙飛行士ISS滞在開始から15周年を祝う

宇宙ステーションの居住環境の整備消臭も、そのひとつです

有人宇宙開発の発展のためにも、宇宙ステーションや宇宙船内の居住環境整備(狭い閉鎖空間で、複数の人が長期間、快適に暮らす工夫)が重要です。宇宙船内の消臭・除菌もそのひとつで、宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、研究を進めています。

タンパク質結晶生成実験作業を行う油井飛行士

ハッチオープン後の「こうのとり」5号機補給キャリア与圧室

エネルギー消費は最小限に、交換品も極力出ないように等、
宇宙での消臭・除菌にあたって望まれることは多い

研究にあたっては、宇宙空間・宇宙船内での消臭に特有な制約が、いくつもありました。まずは、使用するエネルギーについてです。宇宙という地上から隔離された空間では、エネルギーは特に貴重です。消臭効果等の発揮において、電力などのエネルギーを極力使用しないことが望まれます。また、交換品や補充品もできるだけ出ないようにする、もしくは必要な場合でもできるだけコンパクトにすることも求められます。写真右は、ハッチを開けた際の「こうのとり」5号機ですが、補給物資でいっぱいです。

限られた宇宙船内の空間であるがゆえ、交換部品の少ない寿命の長い機器を作ることができれば、地上から持っていく交換品や補充品はできるだけ減らせますし、宇宙飛行士のメンテナンス作業も減ります。当然、コストも最小限になります。こういった発想やそれを実現する高い技術がISSには必要なのです。

こうした制約をクリアするためにJAXAの研究者が試してみようと目をつけたのが、フジコーの光触媒です。北九州の企業が開発した光触媒が、宇宙での消臭の制約にどうチャレンジしているかは、次号で紹介します。

I-03 光触媒で、宇宙ステーション内を消臭

北九州発の脱臭技術が、その制約にチャレンジ

国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟の外観

エネルギー使用や、交換・補充を極力避ける
その制約から、光触媒の消臭に光があたることに

“宇宙空間・宇宙船内の消臭”に特有なものとして、大きな制約が2つあることを、前回お話しました。制約のひとつが、「消臭効果の発揮にエネルギーを極力使用しないこと」です。このため、運転時に電力を使うイオン放出型や電気集塵型の空気清浄方式はできれば避けたいところです。そして、もうひとつの制約が、「交換品や補充品ができるだけ出ないこと」です。この点から、フィルターや吸着剤の交換が必要のないシステムが望まれます。このような状況下で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究者が試してみようと目をつけたのが、光触媒です。

光触媒は、光によってガスや菌を二酸化炭素と水に分解し、消臭・殺菌効果を発揮します。また、光りさえあれば、原理的に効果は半永久的(交換・補充が不要)であることから、「国際宇宙ステーション(ISS)内の消臭(及び殺菌、有毒ガス除去)に使えるかもしれない」ということで研究がスタートしました。

「きぼう」船内実験室の室内

立ちはだかる難題
低照度の室内光でも効果を発揮できるか?

“宇宙空間・宇宙船内の消臭に、光触媒を”。しかし、この試みには、難題が立ちはだかっていました。触媒(消臭・除菌)効果をもたらす「“光源”を何にするか」です。宇宙での太陽光は、放射線、紫外線が強く人体に有害なので、通常、室内には取り込んでいません。写真はISS「きぼう」日本実験棟の室内です。窓らしきもを確認できますか。じつは、奥に見える2つの丸い穴が窓なのですが、この窓からの光を光源とするのは難しそうです。だからといって別途、エネルギーを使って紫外光ランプの光を当てることは避けたいので、室内光で触媒効果が発揮するかどうかが問われることになります。しかも、ISS内ではエネルギーを無駄にしないよう省エネに努めていて、ステーション内は通常100ルクス程度(*1)と暗いのです。(地球に送られてくるのは、いつも明るい映像なので想像しにくいですが・・・)

フジコーの光触媒は、図のように、光触媒を直接溶射(*2)する方式です。そのため、従来の溶剤に溶かして塗布する方式と違い、非常に純度の高い被膜ができ、光触媒効果が非常に高いと言われています。それでも、可視光線の100ルクス程度という条件は非常に厳しく、より高い光触媒反応を発揮するための工夫と実証実験が続けられています。

*1 照度100ルクスは、夜の街灯の下ほどの明るさ。
*2 溶射は、「溶」:コーティング材料を加熱により溶融し、「射」:微粒子状にして加速し、対象(基材)表面に超音速で衝突させて被膜を形成する。

持ち込みは容易か
コンパクトで場所をとらない物か

ISSや宇宙船内に持ち込む機材の質量は、小さければ小さいほどコストを抑えることができます。また、宇宙船内は狭く、ISSも、たとえば「きぼう」の実験室は長さ11.2m、直径4.4mと決して広くはありません。写真を見ていただければわかる通り、室内に置くためにも、“できるだけコンパクトに”することが求められます。 フジコー独自開発の溶射は、低温に温度コントロールすることができますので、薄い特殊紙等にも、燃やさずにコーティングすることが可能です。ということで、ちょうど壁紙のように薄いシートに光触媒の溶射を行ないます。これであれば、他の荷物の隙間のスペースに入れるなどでき、場所を取らず、宇宙船での運搬も比較的容易ですし、持ち込んだISS内では、実験装置のない壁面に薄く張り巡らせるという使い方が可能です。 光触媒による消臭(及び殺菌、有毒ガス除去)は、将来の火星等への有人惑星探査も想定に入れて研究しているので、探査機への持ち込みが容易、船内での使用に場所をとらない、長く使えて交換が不要な点は魅力とされています。

この他にも、多くの課題はありますが、ひとつひとつ課題をクリアすべく、現在、研究開発が進められています。

JAXA編 II マウス飼育ケージの消臭・除菌

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、
国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」において、マウスの飼育実験を予定しています。
その飼育装置には、消臭・除菌のため、株式会社フジコーの光触媒技術が使われます。

II-01 マウス飼育ケージの空気を、きれいに

宇宙での動物飼育環境に、光触媒を

打ち上げまで、カウントダウン!
光触媒技術搭載のマウス飼育ケージ、宇宙へ

宇宙ステーション補給機「こうのとり」5号機のH-IIBロケットによる打ち上げ日時、2015年8月16日22時01分頃(日本時間)が迫ってきました。今回「こうのとり」には、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟で行うマウス飼育用の“ケージ”が積み込まれます。マウスに先立って宇宙に旅立つこの飼育ケージには、じつはフジコーの光触媒技術が使われています。

植物、メダカと進んできた宇宙での生命観察
マウス飼育には「におい・菌」の対策が必要でした

「きぼう」での生物を対象とした研究は、微生物、植物、メダカと進んで、いよいよ哺乳類・マウスを対象に。マウスを飼う“軌道上飼育ケージ”の開発で問題のひとつとされたのが、排せつ物等による「においや菌」を、いかに抑えるかでした。この消臭・殺菌のために使用されることになったのが、光触媒技術なのです。

「個飼いケージ」という「マウスの個室」を、できる限り快適な環境に

「きぼう」で実施されるマウスの飼育は、これまでの「集団飼い」ではなく「個飼い」だそうです。飼育の条件を揃え体重の増加などの成長のばらつきを抑えることができる「個飼いケージ」は、いわば「マウスの個室」。できる限り快適な環境にしたいとJAXAは、飼育ケージに換気ファンや消臭フィルタに加えて、消臭・殺菌力にすぐれた光触媒をコーティングした吸水シートをケージ内に張り巡らせることにしました。

打ち上げまでには、宇宙ステーションの小さな飼育装置内の「消臭・殺菌」といった難しさのクリアや、マウスにとっての安全性の確保が必要でした。(詳しくは次章で!)

II-02 北九州発の光触媒「消臭・除菌」シート

マウスをにおい・菌から守るため、宇宙へ

光触媒「消臭・除菌」シートを張り巡らせた
マウス飼育ケージを搭載した「こうのとり」5号機、打ち上げ成功!

去る8月19日(日本時間の夜)、宇宙ステーション補給機「こうのとり」5号機打ち上げの模様を、TVでご覧になられた方も多いと思います。
ISSの「きぼう」日本実験棟では、世界で初めて軌道上での微小重力(μ〈マイクロ〉G)と、地上と同じ重力(人工的につくりだした1G)という2つの重力環境でのマウスの飼育が予定されています。 今回「こうのとり」には、その飼育用のケージが積み込まれました。飼育ケージの内側には吸水シートが張られていますが、マウスをにおいや菌から守るため、このシートにフジコーが培った溶射(*1)技術で光触媒コーティングをして、「消臭・殺菌」作用のあるシートにしています。

課題1:ケージ内の照明(約50ルクス)でも「消臭・除菌」効果があること

軌道上でマウスをできるだけストレス少なく飼うために、ケージにはLED照明が設置され、12時間交代で昼と夜を人工的につくりだします。
ケージ内の光触媒コーティングした吸水シートには、ケージ内の照明の「約50ルクスという低照度でも光触媒(「消臭・殺菌」)効果があること」という課題がありました。

課題2:マウスにとって安全なものであること
課題をクリアして、ケージはマウスのISS到着を待つ

もちろん「消臭・除菌」シートがマウスにとって安全であることは大前提です。
そこで溶射で光触媒コーティングしたシートを地上のマウスケージに入れて、マウスがなめたりしても、健康状態が悪くならないか、細かなチェックが行われました。
そこで安全性が確認され、また、その他さまざまな課題をクリアして、消臭・除菌シート(吸水シート)を張り巡らせたケージは宇宙に旅立ちました。

北九州発の消臭・除菌シートを搭載したケージは、2つの重力区に設置されて、NASAにより本年度内(予定)に打ち上げられる住人(マウス)の到着を待っています。

*1 溶射(Thermal spraying)
表面処理加工の一種で、加熱することで溶融またはそれに近い状態にした粒子を、金属等の表面に吹き付けて皮膜を形成すること

II-03 国際宇宙ステーションの「きぼう」から

長期飼育マウスが全数、地球へ帰還

マウスの飼育実験が行われたISSの「きぼう」日本実験棟。

「きぼう」日本実験棟の小動物飼育ミッションで
飼育ケージに使われた、フジコーの光触媒シート

大西宇宙飛行士の地球への無事帰還のもようを、TVでご覧になられた方も多いのではないでしょうか。
じつは、ほんの少し前、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟から、地球に無事帰還した集団がいます。
それが、大西宇宙飛行士によって、35日間にわたって実験棟内で飼育ミッションが行われていたマウスたちです。マウスの飼育ミッションは、これまで欧米やロシアでも行われてきましたが、宇宙から無事に地球に還すのは大変難しかったといいます。 その課題解決のためにJAXAが行った対策が、それまでの「集団飼い」から各匹個室の「個飼い」とすることでした。その他にも様々な工夫が“個室”に対して行なわれていますが、その一つが、飼育ケージの内側に貼られた吸水シートです。ここには、飼育ケージ内の消臭・殺歯効果を高めるべく、フジコーの光触媒がコーティングされていました。これにより、マウスのより快適な環境が期待できるというわけです。

6匹用に6つの個室が取り付けられた装置(こちらは1G区画)

異なる重力環境下での飼育という世界初の成果
次世代仔マウスも誕生

今回の実験の大きな特徴は、マウス12匹の半数ずつを、ISS内の微小重力(μ〈マイクロ〉G)と人工的につくりだした地上と同じ重カ(1G)という2つの重力環境で飼育するという点。
老化や寝たきりによる骨量の減少や筋肉の萎縮などを解明し、高齢者医療や新薬開発につなぐ研究の一環だということです。また個飼いなので、1匹単位でカメラ映像を通じ地上スタッフを含む研究者が観察できたことも世界初の成果だそうです。
もちろん、マウスの全数生存状態での帰還は世界初の快挙。帰還したマウスからすでに次世代の仔マウスが誕生したそうです。初めての試みである個飼いを筆頭に、餌や水の与え方など多くの工夫がいっぱい詰まった個室がマウスたちの健康に貢献した結果であると言え、日本の技術の高さを世界に示すことができたのではないでしょうか。
フジコーの光触媒技術も、それに少しは貢献できているとすれば、うれしい限りです。